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蛮堂ミノル・その生涯 ②幼年編
「起きな、糞餓鬼共! おひるねの時間は終わりだ!」
 ラバー製のキャットスーツに全身を包んだ保母が、鞭をしならせる。
 ミノルは自身の身体にかかったタオルケットをまくると、す、と上体を起こした。
 横を見ると、一人の園児がタオルケットをかき抱きながらガタガタと全身を震わせていた。
 ミノルがその肩にふわりと手を置く。
「眠れたか」
「す…少し…」
「眠れるときに眠っておけ。持たんぞ」

 ミノルは優しい両親の庇護のもと、たくましすぎるぐらいにすくすくと育ち、4つの誕生日を迎える頃には、ご近所で「クマ殺し」の異名を持つまでになっていた。これは、よちよち歩きを始めた2日後に、隣家の「クマ」という、80になんなんとする老女と男女の関係になり遂げた武勇伝に由来する。
 ミノルの傑出した人間力はしかし、1歩間違えば世紀の大悪党とも成りかねない危険性をもはらんでいた。蛮堂夫妻は、彼にしかるべき教育を与えるべく、徹底した英才教育で名を馳せる全寮制保育園「ミノタウロ園」に入園を申し込んだ。
 しかしミノタウロ園の実態は、保育園とは名ばかり、恐るべきテロリスト養成施設であったのだ。
 その酸鼻極まる恐るべき教育メニューに、毎日のように多くの園児たちがうんこやしっこを漏らしていた(わりと普通の保育園で見られる光景とも言えた)。

「さあ次はおひるごはんだ! 今日は天気がいいから外で食べるよ!」
 保母が鞭で床を叩く。
 ミノルはタオルケットを畳みながら、戦慄を覚えていた。
「(やはり恐ろしい所だ…普通おひるねは、おひるごはんの後に行なうもの…これを逆に配すれば、おひるねの時間は空腹のためになかなか寝付けず、やっと眠っても、今度は寝起きの状態でおひるごはんを摂らねばならない地獄が待っている…)」

 保母の鞭打つ音に押されるように、ぞろぞろと玄関をくぐった園児たちは、我が目を疑った。
「うっ…」
 広場の中央、巨大な鉄板が設置されていた。辺りの空間は大きく屈曲し、激しい熱を発していることを示している。
「ふふ…気に入ったかい。今からお前たちには、あそこでおひるごはんを食べてもらうよ!」 
 保母の指差した先では、ビキニパンツ一丁の保父が、ステーキ肉を食べやすい大きさに切り分けては、次々鉄板の上に載せていた。
「真っ昼間から…しかも保育園のおひるごはんで、鉄板焼きだとう」
「見てるだけで胸焼けがしてきやがる…」
「イヤァ! 血栓できる! 絶対血栓できる!」

「ぐははははは、これぞミノタウロ園名物、JOJO炎! 各人、存分に召しませい!」
 保母の口調は、いつしか鬼軍曹のそれと化していた。

「泣こうが喚こうが、貴様らはここで生きていくしかないのだ! 言っておくが逃げようなどと考えない方が身のためだ。ここを出れるのは、貴様らが1人前のテロリストになったとき…或いはくたばったとき。それか、ご両親の事情でお前らのおうちが引っ越すときだ!」

『それで出れんのかよっ』
 ミノルは咽まで出かかった言葉を呑みこんだ。

つづく
by keiji65535 | 2005-11-07 20:39 | 自動書記小説
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