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「下善の水は低きより高きへと流れる」
 最近は仕事にも慣れた。麻痺したと言うべきか。
 上役の不条理な叱責も、同僚の仕事量との理不尽なまでの差異も、さほどストレスを感じることなくやり過ごせるようになった。
 ただ、かつて己の内で大切にしていた筈のものがほとんど失われつつあることに対する、言いようのない焦燥だけが、毎夜のようにちりちりと私を炙り、責め立てる。
 私はいったい何の為にこの生活を選んだのだったか。こんな乾いた日々で何を守っているのか。
 それを確かめるには、一度失ってみるのが手っ取り早いのではないか。
 ある朝、私は気がつくと勤務先とは逆方向へ向かう列車に乗っていた。

 その日の夕刻には、私は遙かな断崖より日本海の波濤を眺めていた。激烈な後悔の念を抱いて。
 馬鹿な真似をするのではなかったと、腹の底の底から悔いていた。
 あわよくば、気鬱な日々の中で失くしてしまった本来の自分を取り戻せるのではないかという期待も抱いてこのような蛮勇に討って出たのだが、そんなものは始めから無かったのだと気付かされただけであった。

 傍から見ればこんな私の悲劇など、滑稽事でしかないだろう。
 他人の不幸が滑稽なら、自らの不幸を他人事のように客観視できれば、さぞかし愉快な日々を過ごせるに違いない。
 願わくば、私は自分やそれを取りまく人の世の可笑しさ愚かしさを、高みより俯瞰して暮らしたい。

 そのような存在といえば、神ぐらいのものであろうか。
 ならば、そうだ、私は神になろう。

 窮した心は、極論を導きがちなもの。

 こうして、私は神になったのである。

 今は死ぬほど後悔してます。
by keiji65535 | 2007-10-03 07:39 | 自動書記小説
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