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「運動くん」
 ダントツの首位でゴールテープを切ったその男は、そのまま身体を冷やさぬよう軽く動きつづけ、次の競技に備えていた。
 そこへジャージ姿の若い女が駆け寄ってきた。
「すみません、ご父兄の方でしょうか」
「いや違うけど」
「ならどうして小学校の運動会でいい大人が全力疾走してるんですか」
「一般参加はあかんの?」
「そんな枠は設けてません」
「何、金か? 金が欲しいんか?」
 男は短パンのポケットから万札を取り出した。
「まあ貰うけど」
 女は素早く金を奪いとると、
「とにかく行事進行の妨げですんで、早くお帰りください」
「今、金受け取ったじゃないか」
「それとこれとは話が別です」
「別かなあ」
「だいたい何でこんなことしてるんですか。変態は死ねよ」
「じつは僕は日本短距離界のエースとして将来を嘱望されてる者なんだけど、来週オリンピック選考会があるんです」
「それで」
「最高のメンタリティで本番に臨むべく、ここで圧勝の気分を味わっておこうと寄らせていただいた次第です」
「子供たちのトラウマになるから帰ってください」
「じゃあお金返してよ」
「それとこれとは話が別ですってば」
「別なのかなあ」
「こんな大人げないことしてるとね、おとなげないお化けが出るよってお婆ちゃんが言ってましたよ」
「何?」
「おとなげないお化けです。ほら、こうしてる間にも」
 そのとき、校庭は大きなどよめきに覆われた。
 巨大な白い犬が、舌をだらしなく垂らしながらトラックに駆け込んできた。その一挙手一投足に、生徒たちは声をあげ、はしゃぎ倒している。
 しばらくその様子を見ていた女教師はやがて男に振り返り、
「いやあれは犬ですけどね」
「結婚してください」
by keiji65535 | 2008-05-06 23:19 | 自動書記小説
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