人気ブログランキング |
カテゴリ:自動書記小説( 22 )
あたかも小説「一路」
 前方より歩いてくるリーマン風の若い男。両手の指を不自然に強張らせてパキパキいわせている。またその表情には、心なしか怒気を孕んでいるように見受けられる。そして真っすぐにこちらを睨みすえる目線。まとめると、どうやら男は自分に敵意を抱いて向かってくる様子。
 しかしどうも自分は、男に見覚えがない。何かの行き違いかも知れないが、男が何も言わないので、こちらも弁解の仕様がない。
 といってこのまま黙っていても、ただ殴られるだけである。それって切ない。ではどうする。逃げるか。否、それは愚策だ。そのような痛くもない腹を探られかねない行動は、必ずよくない結果を招く。やましいところがないのであれば、堂々と振る舞うべきである。
 男がこちらに向かって駆け出した。自分は反射的に後方を振り返り、逃走を図る。この際、やむを得まい。何しろ相手は完全に逆上している。
 しかし何としたことか、全力で走る内、言いようのない昂揚感が湧いてくる。悪くないココロモチだ。
 考えてみれば、自らの意思で進む方向を決めて全速で駆けるなどは、久しくなかったことだ。いつも何かに背を押され、目的地に向かうことに苦痛とストレスを伴うようになっていた。それは目的地が自分の好きに設定した場所でなかったためなのだが、そんなことも解からなくなっていた。
 空気が虹と見紛う光芒に染まり、甘やかな芳香が鼻腔を撫でる。恋人が微笑みかけ、道行く人々が天使となって祝福の調べを捧げてくれる。今まで哀しみに満ちていると見えていた世界が、裏返せば愛の形成物であることを知る。愛ある故の哀しみなのだと。
 これまでどうも自分の人生は愉快なことが少ないように思われていたが、それは気付かずに取りこぼしていたに過ぎなかった。しかつめらしく前ばかりを睨めすえていたがために、見えていなかったのだ。時にはこうして後ろを振り返る勇気も必要だった。
 しかし、この安らぎが一時のものでしかないことも、自分は知っている。快楽は、生きとし生けるもの全てが根源的に抱く目的・行動原理だが、それは決して果たされてはいけない目的でもある。生命の意義は、闘争の中にこそある。
 背中に叩きつけられる、殺意と咆哮。自分は再び反転する。目的地に向かって。拳を振り上げて。
by keiji65535 | 2007-08-29 22:37 | 自動書記小説
すっとこ小説「有り体」
 朽ち、崩れ、腐りきった木造アパート、最早住人の一人とて居ないはずのその建物の一室にどうしたわけか、一個の屍体があった。
 この先、誰に見つかる気兼ねもなく、存分に腐敗してゆくことの許されたムクロ。せいぜい、何年か何十年か後に解体業者が、すかすかの骨と畳についた人型の染みを発見することが関の山であろう、そんな有機体。
 世界じゅうの誰にも知られず気にかけられず、沈黙の内に息を引き取り、腐敗する。それが幸福なことか不幸なことかを論じても意味はなかろうしそもそも誰もそこに屍体のあることを知らないわけだから論ずる人がいないわけで、論題としては矛盾を孕む。ただ、生前のその人が多分あまり幸福でなかったであろうことは想像できるかも知れないけれど想像する人はいない。だって誰も知らんから。
 そんな虚無的な死であってもその屍骸にはハエゴキブリその他がたかり卵を生みつけ、れっきとした生命のサイクルがそこに展開されるって、それってとっても身も蓋もないよねっていう、そんな話。
by keiji65535 | 2007-08-20 00:03 | 自動書記小説
愚鈍小説「実存とか言われてもわっかんねえけど本人がこう言うんだしねえ」
 よれよれの顔面が水面(みなも)に映えている。顔面の主は罰雄という。
 どこでどれだけ飲んだのかも判然としない夜。帰る家を持たぬ罰雄は、横になれる場所を探して彷徨っていたが、川を目にした瞬間、その脳髄に冷気が吹き込み、何者かの導きを感応。気ィ付いたら川を覗き込んでいた。
 水面の画像が突如として乱れ、弾け、濁る。罰雄の吐いた吐瀉物のためであった。だが、絶えざる川の流れがたちまちその混濁を清め、すぐにまた、否応なしに罰雄を罰雄に突きつけた。
 街灯の煌々たる光を浴びた川は、世界を鮮やかに反射していた。
 しかし反射は反射に過ぎない。そこに見える星もバスも馬も糞も虚映でしかない。罰雄は虚ろな世界に捉われ、身じろぎ一つしない。
 そんな、そんなお前は、もしかして鮒なのではないか。罰雄は、自身の虚像に問いかけた。
 水面にまたもや小さな乱れが生じた。罰雄がその右手を川に浸したためだ。罰雄はそのままゆっくりと上体を、そして全身を水中に没していく。
 冷たい。体中の全細胞が縮こまる。しかしそれが、俺が鮒でないという証左とはなるまい。罰雄は考える。鮒であればこのまま水中に適応できよう。もし鮒でなければ、そのときは、水がたちまちに俺の体温を奪い去り、死ぬだけだ。
 否、否。
 否!
 例え死ぬことになったとしても、だから俺が鮒でないということにはならない。それは1尾の鮒の死であってもいいのだ。
 あっ苦しい。息できない。めっちゃ肺呼吸かも俺。でも、でもだからといって俺が鮒でないということにはならないかも。肝心なのは俺のアレかも。あの、俺の、アイデン、アイデン、アイデンティっ。

 その後、罰雄の死体が発見されることは遂になかった。おおかた海に流れ着き、そこで腐敗しただけのことであろう。だって絶対、鮒じゃないのだし。
by keiji65535 | 2007-05-14 01:29 | 自動書記小説
リハビリ小説「ヨシゾーTHE君子ところによって修羅」
 ホテルに入るなり連れてる女がメンスを発症、されどその笑みを絶やすことなく女のために夜用スリムを購入すべくコンビニへ走る。そんな現代のメロス、ヨシゾーが、ある公園を散策中、今にも召されそうな弱々しい仔猫を見つけた。
 これをこのまま捨て置けるヨシゾーではない。しかし彼のアパートではペットの飼育は禁止されている。かといって今ここでエサを与えたところで、それは一時しのぎであり自己満足でしかないということを彼は知っている。
 そうなると残された手立ては、彼自らがこの公園で猫と寝食を共にし、猫が自分の力で生きていく術を身につけるまで面倒を見ることだけである。それしかない。それ以外にあったら教えてほしい。
 ヨシゾーと猫の共同生活が始まった。
 段ボールを衣とし、また住とし、近隣住民の残飯を食す。たまに段ボールも食らう。眠る時は互いの温もりを与えあう。ヨシゾーの心を、えも言われぬものがひたひたと満たしていく。
 かような小さい存在の中に、無限の優しさがある。ヨシゾーは猫を見つめながら、つくづくとその不思議を思う。いつの間にやら、彼の方が猫に教えられ、与えられていた。
 憎しみが連鎖・膨張するのと同様、愛もまた、相手次第で合わせ鏡のようなとめどない増幅を繰り返すのだ。
 なまじそんな感情を知った後だけに、猫の身体が冷たくなっているのを発見した朝の動揺は極めて激しく、ヨシゾーの心を鋭利な凍気が、じょんがら節に乗せて容赦なくえぐった。
 ヨシゾーは神を恨む言葉を持たぬ。運命を呪う術を知らぬ。だから自身を責めた。理もなく因果律もない。ただ自らを貶めることに光明を見出そうとした。

 あすこで赤身の全裸を寒風にさらしながら「赦すな俺を。決して決して赦すな」と叫んでいるおじさんには、そんな過去があると思うんです。
by keiji65535 | 2007-04-04 01:09 | 自動書記小説
竜馬くんと弥太郎くん 第2幕
 幕末の雄、坂本竜馬と岩崎弥太郎。
 昨日に引き続き、この両名の不仲の原因を考えていきたい。

弥「…あれ、誰か、うんこしてる奴がいる」

がたがたっ(個室のドアによじ登っている)

弥「あ! 竜馬だ! 竜馬がうんこしてる! おーいみんな、来てみろよー! 竜馬の奴、藩邸でうんこしてやがんの! うーんこ! うーんこ! りょーまーがうーんこ! りょーまーのうーんこ! うーんこ! うーんこ!」

竜「……………!!!!!!!」
by keiji65535 | 2006-05-17 21:46 | 自動書記小説
大河小説 竜馬くんと弥太郎くん
 幕末の風雲児、坂本竜馬。
 彼を明治維新最大の立役者たらしめたのは、北辰一刀流を修めた剣の腕前や、先見性や柔軟性に富んだ思考力もさることながら、その人間的魅力もまた一つの大きな素因であったというのは、疑いのないところである。
 彼の人柄に触れたあらゆる志士たちが、立場や思想を越え、彼に心酔した。
 しかし例外がなかったわけでは無論ない。岩崎弥太郎はその内の一人である。
 土佐藩で浪人の身から重職に抜擢を受け、維新後は三菱財閥を創業することになるこの男と竜馬は、お互いの能力・見識を大いに認め合いながらも、とうとう私人として打ち解けあうことはなかったとされる。
 いったい二人の間に何があったのか。隠された歴史の裏側を探っていきたい。

弥「よーよー竜馬、お前、好きな女子いんだろー。」

竜「え…い、いないよ、そんなの…」

弥「嘘つけよ。いるだろー? なー? ホントはいるんだろー?」

竜「…うん。まあ、一人」

弥「誰だよ! 絶対内緒にするから教えろよ!」

竜「言えないよ、そんなの…」

弥「な ん で だ よっ! 言えよ! いいから言えって! …よしじゃあ、お前が言ったら、俺も言うから」

竜「本当に?」

弥「ホントホント! 絶対! 命カケる! な? だから言えよ!」

竜「………おりょうちゃん」

弥「えー! 何お前、あんなブスが好きなのー? うわー。うっわー!」

竜「な、何だよ、いいじゃんか別にっ。 それで、やっちゃんは、誰が好きなんだよ」

弥「俺は好きな女子なんか、いねーもん」

竜「……………!!!!」


(※ここに、おもっくそ影響を受けましたよ) 
by keiji65535 | 2006-05-16 20:07 | 自動書記小説
かんしゃく持ち
「こんにちは。今週もやってまいりました、『家庭の魔法』のお時間です。先生、どうぞよろしくお願いします」

「お願いします」

「さっそくですが先生、今日はどのような」

「え、今日はですね、どこのご家庭にもある、いらなくなった衣類を有効利用する方法をご紹介します」

「まあ、それはとても助かりますね。ほらこれ、うちの押入れに入っていたものなんですが、子供が昔着ていたベビー服、擦り切れたコート、首もとの伸びたTシャツ…」

「あらまあ、すごい量。これ全部、いらないの?」

「はい」

「ならさっさとパキスタンなりアフガニスタンなりに送ってやるがいいだろうが! ぼけっかすっ人非人! 死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね、死ねえっ!!」
by keiji65535 | 2006-03-02 18:35 | 自動書記小説
こんな夜に
 なぜ死ぬとわかっていて行くかって? それは俺が「男」だからさ。

 なぜ風邪を引いたら首にネギを巻くかって? それは俺が「おばあちゃん子」だからさ。

 仲間たちの声が俺の背を打つ。しかし歩みは止まらない。

「よせ! スポーツ新聞の求人欄に応募するのはやめろう!」

 脳髄でそのような一人芝居が繰り広げられるほどに、彼にとって就職活動とは一大事業であった。
 履歴書に虚偽の住所を記すことで、いつでも逃げれる道を敷いて入ったその零細広告会社は、しかし、彼自身が驚くほど、すんなり勤まっていた。
 俺はもしかして、けっこう働き者だったのか。彼は自身に対する認識を改め、それまでの怠惰を悔いた。人生の30年近くを無為に過ごしてきたその遅れを、少しでも取り戻そう、そんな殊勝な考えさえ抱きはじめていた。

 しかし平穏は長く続かなかった。

 彼がある日、彼の会社と平素懇意にしている印刷工場に赴いたときのこと。

「あー。わー」

 ここが静かなのは、最近いつものことだった。彼の会社以外、この工場に仕事を廻しているところはほとんどないようだった。
 それにしても今日は人っ子一人いねえじゃねえかと不審に思いつつ足を踏み入れると、輪転機の上で工場の社長が首を吊っていた。

 彼は不思議なほどの落ち着きで、俺が第1発見者ってことはねえだろう、他の従業員はどうした、と訝り、工場奥の階段を昇り、事務所に向かった。道々、携帯で会社に連絡し、社長に状況を伝えた。
 やがて事務所に辿り着いたが、金庫が開いて中が空になっている以外は、普段と様子は変わらない。待っていれば誰か来そうな気がするが、まあ来ないだろう。
 ここへ来てようやく、警察に通報するという発想が出た。
 机の上の紙袋に工場の住所が記されており、それを携帯で警察に伝えた。
 切ってから、あ、警察来るまで俺いないとまずいのかな、と思い、どうせ帰ってもすることないけどでも死体の目と鼻の先でじっとしているのもどうもなあ、まあでも仕方ないか、彼は観念してソファに腰を沈めた。
 ふと窓の方を見ると、コガネ色の猫が、トタン屋根の上で伸びをしていた。
 しばらく眺めていたが、猫はこちらに気付きもしないようだった。

 こうなるとどっか他の印刷工場さがさなきゃなあ。それ、俺がやるのかな。まあ俺しか営業いないし。ここみたいに、納品書の改ざんに協力してくれるような工場が、簡単に見つかればいいけどなあ。

「ああ」

 彼は考えることを放棄して大きく一つ嘆じると、天井を仰いだ。
 穴がボコボコあいていた。

知らせ。
by keiji65535 | 2006-01-31 22:52 | 自動書記小説
極限の倦怠感の中で紡いだ物語
 決して外界と交わることなくひっそり暮らす山村があった。

 あるときから、どうしたわけか、その村に女が全く生まれなくなった。気が付いたら村中に50歳より下の女は一人もいなくなっていた。

 このままでは村は遠からず滅んでしまう。村の重鎮たちは話し合った結果、長年の禁忌を破ることにした。村に若い娘を連れてくるため、40人のイケメンを選び出し、村より放った。

 40人のイケメンは、山を降りる途中、2時間おきに野生のクマに襲われ、麓に着く頃には20人に減っていた。

 その日より、残った20人のイケメンたちは、悲しみを押し殺しつつ、狂ったようにナンパを続けた。

 1ヶ月後、50人の女が集まった。彼女らは、山の上にイケメンばかりの住む村があると吹き込まれていた。

 総勢70名が、村に向かって出立した。

 途中、一行は2時間おきに野生のサムライに襲われ、それでも女だけは守らねばならぬと、イケメンたちは身を挺して戦った。

 しかしそれでも20人の女が犠牲になった。イケメンに到っては1人しか残らず、その1人も、村に着くと同時に、安堵したかのようにその場で倒れ、息を引き取った。

 こうして30人の女が村に辿り着いた。

 しかしそのときには、村人全員がホモになっていたという。
by keiji65535 | 2006-01-04 03:02 | 自動書記小説
キャベツおじさん
 僕が職を失ったとき最初に行なったのは、キャベツおじさんに報告に行くことだった。

 キャベツおじさんは近所に住むちょっとした変わり者で、公園のベンチでライターに点けた火をガスが切れるまで眺めていたり、アオコしか生息していないような溜め池に日がな一日釣り糸を垂れていたり、数々の奇行によって界隈ではちょっとした有名人だったけど、ただ、おじさんがキャベツを持っているところは見たことがなかった。

長いよ?
by keiji65535 | 2005-12-26 01:39 | 自動書記小説